Menu
0 Comments

不確実で予想不可能な未来はホント?

「不確実な未来」とか「予想不可能な未来」という言葉が、さまざまな場で語られるようになりました。VUCA(ブーカ)とも表現されるこの時代観が、政策・ビジネス・コミュニティづくりなどで方針の根拠として用いられるようになっています。このVUCAというのは、次の4つの頭文字を表しています。

  • V(Volatility:変動性)
  • U(Uncertainty:不確実性)
  • C(Complexity:複雑性)
  • A(Ambiguity:曖昧性)

この4つの事柄が21世紀の特質であるとされ、この特質に対応すべく政策や行動を決定していく必要があるという考え方があります。これは本当でしょうか?

このような状況下では、想定外の出来事が次々と起こり、常識を覆すようサービスが生まれ、今までの常識が非常識になると言います。では、これは21世紀にだけ当てはまることなのでしょうか。

答えはNOです

人間の歴史が誕生してからというもの、10年後の生活を予想可能な時代など一度もなかったのです。例えば、縄文時代には、日々同じような安定した暮らしが繰り返されたという認識も誤認識です。狩猟・漁・採集などに依存していた当時の暮らしは、自然の変化の影響を直接的に受けるものだったので、明日の分からなさは今以上だったかも知れません。また、弥生時代や古墳時代になると、他のクニとの関係が複雑化し、新たな先読みの難しさが生じたことでしょう。奈良時代の大規模な伝染病流行、戦国時代の世相の混乱、明治維新、戦争の時代、産業革命など、それぞれの時代にはそれぞれの時代の「予想困難さ」が常にあったのです

それなのに、どうして今、VUCAという考え方が生まれたのでしょう。その背景には、未来に対する不安に基づいた認知バイアスがはたらいていると考えられます。

認知バイアスとは、ある現象や事象について、過度に捉えすぎたり、誤って捉えてしまったりすることによって生じる認知の歪みです。

認知バイアスの中でもVUCAの認知を支えているのは、確証バイアスであると考えられます。確証バイアスとは、先入観や持っている仮説に基づいて観察し、その先入観や仮説に当てはまる情報だけを集めて、それにより先入観や仮説を補強するという傾向のことです。いったん結論を出してしまうと、その後に得られた情報をその結論に有利に解釈してしまいます。

実際、VUCAの根拠を挙げることは可能です。スマートフォンの普及、コロナウィルスによる社会変革、働き方改革などは、VUCAの根拠として挙げられやすいものです。しかし、同時に、多様化の時代と言われているにもかかわらず、世の中にはなかなか変わらないものも相変わらずたくさんあります。そのような部分には目を向けず、VUCAの根拠だけに目を向ければ、それが真実となるわけです。これが確証バイアスの仕組みです。

このような認知バイアスというのは、日常に起こりうるものです。私たちは、あらゆる思考を一から組み立てるのではなく、これまでの経験や知識と照らし合わせて、必要最小限の観察によって理解しようとするため、この思考の過程で認知バイアスは普通に起こってしまいます。

VUCAの考え方において、問題なのは、不安に基づいた認知バイアスが、さまざまな場面で重要な決定のための根拠になっているという点です。例えば、学校教育の政策を立案する際にも、「予測することの難しい未来を担う子ども」のような言葉がよく見られます。未来を担う子どもの政策を決定する際に、その根拠が未来不安であることは大いに問題があります。

なぜなら、教育について考える際には、子どもの現在が根拠になるべきだからです。今、子どもがどのような課題をもち、どのように成長したいと望んでいるのかが大切にされなければならないのであり、VUCAに対応できる子どもが目的になってしまってはいけません。「予想できない未来」への不安を、子どもに背負わせてはならないのです。今一度、子どもベースの教育論に立ち戻ることが必要です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。