今回は、実際のセラピー時にはどのような資質が求められるのかについて考えてみたいと思います。

セラピー時にどのような資質が求められるのかについては、介在犬が、心理療法の中でどのような機能を果たすのかということに直結しますので、介在犬の機能をもとにして考察していきたいと思います。


セラピー時の資質①:多様な反応ができること

介在犬のもつ重要な機能として、投影対象としての機能があります。心理セラピーの中で、クライアントは、自己のこれまでの経験や交流してきた人物の一部分を取り出して、介在犬に転移させます。それは、意識的に行われるのではなく、ほとんど無意識的に行なわれます。

例えば、最初のセッションで犬に出会った時に、「怖いな」と感じたクライアントがいたとします。その怖さは、もしかするとクライアントが、仕事で初めて商談相手に出会った時に感じている怖さを投影しているかも知れません。また、もしかすると、同年代の人との交流を苦手とするクライアントさんが、犬に同年代の人に対する苦手さを投影しているのかも知れません。それはクライアント自身にとっては無意識的に生起するものです。

このように、クライアントが介在犬に対して感じる一つ一つの感情は、クライアントのそれまでの生活史を反映したものです。

このはたらきは、認知療法で言うところの自動思考の発動とも共通点があります。人間には、特定の場面で無意識的に、あるいは、自動的に発動する思考のはたらきがあります。それを認知療法では自動思考と呼びます。

不適切に働いてしまう自動思考をリハビリテーションによって矯正していくことは、心理治療の一つの試みとなります。その際に、実際の社会的場面ではなく、カウンセリングという安全な空間において、クライアントにまったく利害関係をもたない介在犬が投影対象となり、リハビリテーションを行うことは、大きな価値があります。この介在犬の機能から考えると、介在犬に求められる資質に、多様な反応ができることが挙げられます。

心理臨床とは異なる場で行われる、愛玩対象として癒しを与えるセラピードッグは、人間が求める反応をし、人間が不快に感じるような反応をしないことが求められます。ですが、心理療法介在犬においては、事情がだいぶ違ってきます。

心理療法介在犬は、クライアントの多様な関係性を投影する対象であることが求められるため、クライアントのはたらきかけに対して、しっかり反応できる資質が求められます。

その反応が、非言語的な形で表現されることによって、クライアントが、介在犬との関係性を良い形で積み上げていき、互いに信頼関係を獲得し、カウンセリングの中でクライアントのもつ困難さを克服していくリハビリテーションを行なっていくことができるのです。


セラピー時の資質②:ラポートの構築ができること

心理療法介在犬は、クライアントとの関係性を適切な方向へと変化させていく中で、心のリハビリテーションの対象としての機能を果たします。そのため、適切な関わり方をすることで適切にラポート(信頼関係)を構築できることが求められます。

ラポートを構築するために要する時間は、犬種や個体のもつ個性に依存します。早い方が良いとか、遅いほうが良いとかということはありません。なぜなら、クライアントによってもラポート構築に求められるペースが異なるからです。つまり、クライアントのラポート構築スキルによって、適切な介在犬の選択が求められるということになります。

ただ、ラポート構築の早さは条件にならないのですが、適切な関わり方をしてもラポート構築に至りにくい犬については、心理療法に介在する犬としては適性が欠けていると判断すべきでしょう。介在犬との関わりを改善していけないという無力感をクライアントに感じさせてしまっては、動物介在療法が有効にはたらかなかったという結果になってしまうからです。


セラピー時の資質③:トレーニング耐性があること

動物介在療法では、クライアントは介在犬と様々な関わり方をすることになりますが、その中で大きな部分を占めるのが、クライアントによるドッグトレーニング体験です。

ドッグトレーニングは、よく誤解されますが、犬に何かをできるようにさせること(訓練成果)だけが目的で行われるものではありません。ドッグトレーニングというものは、言語的なコミュニケーションをとることのできない犬と人間とがコミュニケーションを交わすための機会そのものなのです。

したがって、動物介在療法では、クライアントと介在犬の交流を生み出すために、ドッグトレーニングを積極的に活用します。そのため、トレーニングが嫌いであるなど、トレーニング耐性が低い場合には、クライアントとのコミュニケーションをうまく構成することができません。

介在犬のトレーニング熟達度については、初級から上級までどのレベルにあっても大きな問題にはなりません。大切なことは、介在犬がトレーニングが好きであり、モチベーションをある程度維持することができることです。また、トレーニング耐性には、好きであること、モチベーションが維持できることの他にも、様々な要素が関係します。

例えば、ご褒美への欲求の強さもトレーニング耐性に大きな影響を与えます。ちなみに、当NPO法人の専任介在犬は、食物アレルギーをもっているため、おやつの種類も限られており、強く欲求を喚起できるようなモチベーターとしてのおやつをもっていません。そのため、クライアントの方に、普段トレーニングで用いているクリッカーを持ってもらい、クリッカーによって正の強化を行っています。モチベーターはおやつでなければいけないわけではありません。


今回は、セラピー時に介在犬に求められる3つの資質について考えました。

繰り返しますと、その3つとは、

① 多様な反応ができること
② ラポートの構築ができること
③ トレーニング耐性があること

ということになります。

これらは、犬のもつ資質としては、それほど特別なものではありません。むしろ、犬らしい行動パターンを持ち合わせていることが、介在犬の資質であるとも言えます。

そして、何よりも大切なことが、介在犬自体がセラピーを楽しめる素質を持っているということです。動物福祉の観点からも、介在犬がさまざまな方と関わり、触れ合うことを楽しめることは重要であり、そのためのトレーニングや環境づくりがハンドラーやセラピストに課せられた責任なのだと考えます。

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