今回は、心理療法に介在するセラピー犬の資質はどのようなものなのかということについて考えてみたいと思います。
セラピー犬の資質については、国際的にも様々な団体によって定められてきました。よく知られているところでは、旧デルタ協会による評価尺度が有名です。
旧デルタ協会の尺度例
・お座り、待て、伏せの基本号令
・ハンドラーとの歩行
・日常的刺激に対する反応
・ブラッシング、犬具脱着等への反応
・呼び戻しの確実性
・抑制の受け入れ
日本国内でもセラピー犬を認定する様々な団体が、認定のための条件を整備しています。
これらの資質リストは、動物介在活動に従事するセラピー犬のための資質として求められるものとして多く利用されています。ただ、心理療法に介在するセラピー犬は、心理療法に関わるという特殊な役割を担うため、一般的な動物介在活動に求められる資質とは異なる資質が求められます。
動物介在活動に従事する犬は、利用者との交流は基本的には一回きり、あるいは、無作為なものであることが多く、また、効果の方向は介在犬から利用者への一方的なものになりやすい傾向があります。他方、心理療法において介在犬の果たす役割は、計画的・連続的なものであり、介在犬からクライアントが何かを得るのではなく、クライアントが介在犬に働きかけたり、介在犬に自我を心理的に投影したりすることになります。このことが求められる資質に違いを生んでいます。
それでは、そんな特殊な役割をもつ動物介在療法のセラピー犬には、どのような資質が求められるのでしょうか。
心理療法の介在犬に求められる資質①▶︎安全性についての資質
安全性の観点から資質を捉えると、①セラピー犬の安全性と②クライアントの安全性、そして、③環境の安全性の3つの安全性から捉えることが適切だと考えられます。
①セラピー犬の安全性
セラピー犬の安全性を保障するためには、セラピーを行う際の環境整備が大きな要素となりますが、ここでは、セラピー犬の側の資質について考えたいと思います。セラピー犬の安全性につながる資質は、危機回避スキルの熟達度ということになります。
どのような状況においても動揺せずに落ち着いている犬は、ハンドリングしやすい犬ではあっても、危険を回避する能力の高い犬であるとは限りません。必要に応じて、適切な方法で不安を表現したり、限界を伝えたりすることのできる犬が危機回避スキルの高い犬であると言えます。
ハンドラーが付いていればどんなことも怖くないということでは、自立的な危機回避ができているとは言えません。ハンドラーだけでなくクライアントにも適切な方法で不安・恐怖・限界を伝えることができるようトレーニングしてある必要があります。
心理療法を実施している際には、クライアントとセラピー犬との間に非言語的コミュニケーションが行われます。その非言語的コミュニケーションは、初めからスムーズに行われるということは稀であり、継続的なセラピー施術によって、次第に適切なものへと発展していくものです。
そのような過程においてさえ、犬は、ハンドラーの指示に忠実にがんばろうと行動しがちです。それによって、無理な行動をとってしまい、安全を脅かされることにつながってしまうことがあります。また、したくない行動をとり続けることにより、心理的安全性を脅かされることにもなり得ます。
心理療法に介在するセラピー犬は、クライアントに対して、きちんと不快感を表現できることも大切になります。セラピー犬とクライアントのどちらかが我慢して成立するコミュニケーションでは、セラピー犬の安全性を確保できないだけでなく、心理療法としての治療効果も不十分なものとなってしまうのです。
②クライアントの安全性
クライアントにとっては、当然ながら、咬傷事故を起こさないための資質があげられます。それは、咬まないということだけではなく、口をどのように使うことに価値をもっているかということに関係します。
咬傷事故の原因となる咬み癖は、遊びの中から発展するケースがあります。たまに、犬に対して素早く手や物を差し出しては引っ込めることで反応させる「ちょっかい遊び」を目にしますが、このような遊びは、セラピー犬に対しては良い遊びとは言えません。早く動くものに素早く口で反射する訓練をしているのと同じ意味をもつからです。
犬にとって口は、人にとっての手のようなものですので、口で物を扱うことは自然なことです。大事なことは、口でどのように物を扱わせるかということになります。様々な機会を得ながら、口を良いことに使わせ、良いことに口を使ったら正の強化を行うようにしていくことが大切になります。それによって、咬むことで意思を表現しない資質を身に付けさせる必要があります。
③環境の安全性
動物介在療法を行う際には、セラピストは環境に対する責任をもちます。
犬は、誰にとっても親しみのある可愛い存在ではないことを認識する必要があります。中にはトラウマチックな経験により、犬に対して恐怖感を抱く方もたくさんいます。セラピストは、そのことを忘れずに、周囲に常に気を配る必要があります。セラピーの遂行よりも、周囲の人や動物の身体的・心理的安全性を優先しなければいけません。そのためには、セラピー犬は、人が好きであるという適性とは裏腹に、人が好きすぎてやたらに臭いを嗅いだり、擦り寄ったり、飛びついたりしないということが資質として求められます。
また、環境の安全性については、物質的な環境の維持も重要です。糞尿で公共の場を汚さない、人の使うものと犬の使うものとの区別ができる、人工物との適切な距離を保てることなどのマナー行動も重要な資質と言えます。
今回は、心理療法介在犬に求められる資質の内、安全性に関わるものについて考えてみました。
次回は、セラピーへの介在時に求められる資質について考えてみたいと思います。
No responses yet