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当法人のアニマルセラピー・動物介在療法の考え方

現在、みらいびらきLabo.では、動物を介在させた心理療法としてのアニマルセラピー(動物介在療法)をニーズに合わせて実施していくための条件を整えています。

一般にアニマルセラピーというと、動物との触れ合いを通して「癒し」を得る活動をイメージしますが、これは正確には動物介在活動Animal Assisted Activities:AAAと呼ぶべきもので、いわゆるセラピー(療法)ではありません。

動物介在療法Animal Assisted Therapy:AATは、医師や心理師が課題となる心理症状の改善・治療を図るために、意図的・計画的・臨床的に行うものを意味します。

1960年代にアメリカで、B.M.レビンソンが最初に理論化した心理療法です。レビンソンが飼っていた犬のジングルスが少年のカウンセリングで偶然役に立ったことをきっかけにして、心理療法にまで整理されたものです。

レビンソンと愛犬ジングルス

レビンソンがペットセラピーとして研究を発表した際には、アメリカの心理臨床界では、嘲笑する者が大多数でした。その際、現代カウンセリング理論の祖であるカール・ロジャースは、この世評を「このような評価は、新しいテクニックが開発された時の一般的な反応であり、抵抗である」と評し、ペットセラピーを擁護しました。その後、様々な臨床家から多くのエビデンスが提出され、アメリカでは動物介在療法が正当評価されていきました。こうして、欧米では、国によっては保険適用となるところまで有効な心理療法としての評価を得ていくことになりました。

他方、日本においては動物介在療法は一般的ではなく、その効果については疑問視する声もまだまだあります。日本の心理臨床は、欧米より60〜70年遅れていると言われています。レビンソンが心理療法として整理しておよそ70年を経た今、日本においては、ようやく動物介在療法についてのエビデンスに基づいた評価が出始め、大学に専門学科が設置されるようになりました。

日本で動物介在療法が認知されにくい背景には、ある誤解があります。それは、アニマルセラピーを「クライアントの問題を動物が治してくれるもの」とする認識です。これは誤りであり、動物介在療法では、あくまで心理師が心理療法を施術するものであり、動物は介在者として心理師とクライアントの間でそのプロセスを促進させたり、反映させたりする役割を果たします。

では、動物を介在させることで、心理療法の展開にとって、どのような利点があるのでしょうか。ここでは、みらいびらきLabo.の考える動物介在療法の基礎的な理論立てについてご説明します。

みらいびらきLabo.の考える動物介在療法の利点

1 転移の対象となる
2 脱感作の対象となる
3 非言語的なアプローチが可能
4 移行対象となる
5 強迫神経症の行動の対象となる
6 不随意運動への無関心

1 転移の対象となる

動物を介在させて子どもを対象としたカウンセリングを実施することで、最も有効となることは、子どもを取り巻く方々との関係性を動物へと転移させることにあります。

転移の対象は、適応しづらい相手であることもあれば、逆に愛着を求める相手であることもあります。また、性的な対象となる相手を動物に転移させることもよくあることです。

子どもは、動物との触れ合いの中で、自身の成長課題や日常生活の中で解決したいことや実現したいことを動物を対象に生き生きと表現します。この転移をカウンセリングの中で利用することによって、子どもの心理状態を多元的にアセスメントすることが可能となるのです。

そして、興味深いことに、子どもは日常生活ではリスクが高くて挑戦しにくい課題を、動物を対象として積極的に挑戦しようとします。例えば、初めて会った人に適応することが難しい子どもであっても、初めて会った犬に対して進んでアプローチを図ろうとしたりします。

人見知りの子どもが、散歩中の犬に関心をもって接触を図ろうとしたり、ペットショップにいる小動物に指を差し出したりすることを目にしたことがあるかと思います。

このように、動物は、日常生活ではリスクの大きな心理的課題の克服を、無意識に動物に様々な対象を転移させながら容易に試行することのできる機会を子どもに与えてくれます。

2 脱感作の対象となる

動物は、子どもにとって脅威を伴う他者として存在します。一般に、動物の大きさによって驚異は拡大する傾向があり、ハムスターよりもウサギ、ウサギよりも犬猫、犬猫よりも馬と、脅威は拡大していくことが多いと考えられます。

動物介在療法における最初のフェーズは、転移を伴った介在動物の脅威に対する脱感作の作業となります。動物への「慣れ」は、脱感作のプロセスによって進められます。脱感作のプロセスは、クライアントの特性や介在動物の性質などによって変わってきますが、初めは、遠くから見るだけで、次第に同じ部屋にいれるようになり、柵越しに近づけるようになり、おやつをスプーンで与えられるようになり、背中を触れるようになり…というように段階的に進められます。

とりわけ不登校などの不適応感をもっている子どもにとっては、この脱感作プロセスは、とても重要な意味を持ちます。脱感作による脅威の克服経験は、不適応感をもつ子どもにとっては最もニーズの高い経験の1つであると考えられます。

みらいびらきLabo.では、脱感作フェーズにおいては、SD法(形容詞法)によるアセスメントを行い、動物愛着尺度の変化をモニタリングし、脱感作プロセスの段階について評価しています。

3 非言語的なアプローチが可能

自閉傾向、場面緘黙などによって、言葉によるコミュニケーションに困難をもつ子どもにとって、言語の通じない動物はニュートラルな存在となります。おしゃべりが得意であることは、動物と良好な関係を築くことにおいて、大きなメリットとはならないのです。

また、動物と接する時に、口に出す出さないの違いはあっても、人は動物のセリフを代弁しています。つまり、自分から働きかけたことに対して動物が働き返すという往復を自己内で対話しています。

例えば、飼い主が犬に「お腹減ったか?」と聞いても、犬は「うん、減ってる」とは答えませんが、飼い主は「そうか。すぐ出すから待ってろ」と答えたりします。介在動物は、このような自己内対話を促進するはたらきをします。これは、自閉傾向のある子どもにとっては、有効なリハビリテーションとなります。

そして、何よりも動物を撫でるという行為が子どもに与えるプラスのはたらきは、極めて大きなものとなります。では、撫でるという行為は、どのような意味をもっているのでしょうか。

これは、動物介在療法の根幹にもなることですが、動物介在療法は、動物が人間に何かをしてくれることではありません。動物介在療法とは、人間が動物にはたらきかけたことの反応として動物が示すプラスの様態によって、クライアントがセルフエスティームを高めることを利用した心理支援です。

なぜ人間が動物を撫でるのか。それは、動物がプラスの反応を示すことを期待しているからです。動物が見せる気持ち良さそうな表情や様子を見ることによって、人間は満足を得るように遺伝子に刻まれています。人間は、進化過程において、他者の快を自己の快とする性質をもったと考えられています。介在動物は、この人間がもともと有している性質を発現させることを促進することができます。

4 移行対象となる

遊戯療法を発展させたウィニコットの用いた概念に「移行対象」というものがあります。

移行期(1~3歳)において、肌身離さず離さず持っている人形やぬいぐるみ、タオルなどのような客観的存在物で、特に不安が高まった時などに抱きしめるような愛着対象のことをいう。

ある程度の年齢になっても移行対象であるぬいぐるみやタオルなどに依存する傾向が強い子どもがいます。そのような子どもに対して介在動物は、より適切な対象として代替するものとなり得ます。

自立した性格や生活をもつ介在動物へと移行対象を代替させることによって、移行対象への依存を緩和することができます。

また、同様に、強迫神経症の子どもにとっても、介在動物は適切な代替となり得ます。

5 強迫神経症の行動の対象となる

介在動物が、強迫神経症の子どもが繰り返し行う行動のより適切な対象となり得ます。強迫神経症の子どもに不安に基づく繰り返し行動を介在動物を対象にして行わせることで、挨拶行動や確認行動などの不安に基づく行動をより適切な形で行わせ、満足させることができます。

6 不随意運動への無関心

チック、トゥーレット症候群などをもつ子どもは、不随意運動に対する他者からの見られ方を強く気にする傾向があります。動物は、不随意運動に対して人間よりも無関心な傾向があり、不随意運動をもつ子どもにとって、パートナーやコンパニオンとなりやすい対象です。

不随意運動を気にかけて、他者と関係性を築くことに抵抗をもつ子どもにとって、動物と関係性を結んでいくプロセスは、セルフエスティームを維持することを可能とするとともに、脱感作としての意義ももちます。介在動物を通じて得られたスキルと自信を、他者との関係づくりに援用していくことができます。

ただし、介在動物の種類によっては、急な動きや音に対して敏感に反応する動物もいるので、動物の選定は、その点も考慮して行う必要があります。

まとめとして

みらいびらきLabo.の考える動物介在療法の利点について、以上6点を挙げました。もちろん動物が子どもたちに与えてくれるプラスのはたらきは、上記にとどまるものではありません。何よりも、動物のもつ魅力が、最大の価値をもちます。この点で、動物介在療法は、日本型の心理支援の課題を克服することのできるセラピーの1つであると考えています。

日本型の心理臨床は、「クライアントの問題を治す」とか「課題を克服させる」というような克服論が根本にあり、課題を克服するために、心理臨床家がすべきと考えたことをクライアントにさせるというスタンスが基本となっています。いわゆるカール・ロジャースの来談者中心療法とは真逆の方向性をもっているものが主流であると感じます。

実際、多く実施されている心理療法は、欧米で半世紀前に主流であったものが多く、内容は、がんばって、若しくは我慢して行うことによって自身の問題点を改善させるというものがほとんどであるのが実際です。

動物介在療法は、介在動物がクライアント自身から主体的な動機を生み出し、動物との関係性の中で、今の自己を最適化していくプロセスであるという点において、日本型の心理臨床を新たなフェーズへと進めていくことの端緒になるものであると考えています。

動物介在療法に限らず、クライアント自らが主体的な動機をもって取り組んでいける心理支援が日本でも普通に得られることができるようになることを、みらいびらきLabo.では目指していきたいと思います。

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