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ワーキングメモリーって?

WISC知能検査などの検査項目として「ワーキングメモリー」というものがあります。この知能は、どのような場面ではたらき、その高低がどんな意味をもっているのかについて、今回はご紹介します。

学校での授業への適応が難しかったり、集団行動に困難があったりするお子さんのワーキングメモリーを見ると、年齢平均値より低いことがしばしばみられます。他の領域の知能はそれほど低くないのに、ワーキングメモリーだけが低いということもあります。

では、そのワーキングメモリーとはどのような知能を指すのかですが、分かりやすい例は、電話をかける場面です。1台の携帯電話を使って、電話番号を調べてかけるとき、インターネットなどで電話番号を調べ、それを覚えて、番号を打ち込みます。(コピペをする人も多いと思いますが・・・)この作業の中で、ワーキングメモリーが必要となるのが、電話番号を打ち込むまで一時的に覚えておくという場面です。この記憶は学習のために用いられるのではなく、作業(ワーク)のために用いられます。このように、その時の作業(ワーク)のために一時的に記憶され、要が済んだら破棄される記憶をワーキングメモリーと言います。

数に限らず、作業に用いる情報は多様

では、学校生活において、ワーキングメモリーはどのような場面で必要となるのでしょうか。


学校の中のワーキングメモリー

学校の中には、想像以上にたくさんのワーキングメモリーを求める場面があります。

授業中はワーキングメモリーがフル稼働

例えば、授業中。小学校から大学まで、学習の中の主要な活動は、黒板の板書をノートに書き写すという活動です。この活動のどこにワーキングメモリーがはたらいているのでしょうか。もうお分かりですね。板書を一時的に記憶し、ノートに写しとったら破棄するという部分です。あれ?この部分は作業(ワーク)だけでなく、学習にも関わっているのでは?と思われるかもしれません。

実は、この作業によって学習が成立している学習者は、一部の学習者でしかありません。残りの学習者は、記録のためにノートを写すという作業をしているのが実際です。同じ授業を受けていたとしても、授業の中のどの場面で学習が行われているかは、それぞれの学習者の学習スタイルに依存しています。書くことによって学習を定着させる学習スタイルは、すべての学習者にとって有効な訳ではなく、聞くことの方が有効であったり、見ることの方が有効であったりする学習者がいることは、学習心理学の大前提となっています。WISC知能検査は、まさにどのような知能に強みと弱みがあるのかを客観的にアセスメントするための知能検査であると言えます。

さて、板書写しに必要な知能がワーキングメモリーであるということからだけでも、ワーキングメモリーに弱みがあるお子さんが、学校生活を安心して送ることについてハードルをもっていることが想像できますね。

その他にも、先生の指示を耳で聞き、行動に移すという一日中繰り返される活動の中にもワーキングメモリーは求められます。一時的に情報を保持し、作業に応用したら手放すという脳のはたらきは、学校の中にはたくさんあり、そこに困難さをもつ子は、さまざまな場面でできなさを感じてしまいやすいことが想像できると思います。


ワーキングメモリーと他の記憶の違い

ワーキングメモリーと、その他の記憶(長期的な記憶、エピソードを伴った記憶など)の違いはどのようなものなのでしょう。

まず、ワーキングメモリーは、その内容自体は本人にとって価値をもたないということがあります。例えば、電話番号を覚えて電話をする場面では、数字の羅列は電話をかけるためには必要なものですが、その数字自体には何の価値もありません。1より2が良いわけでもありません。あくまで作業を遂行するために必要な情報に過ぎないのです。

ですが、「溺れている時に、母が救ってくれた」という記憶はどうでしょう。この記憶は、記憶自体が本人にとって重要な意味を持っています。逆に、この記憶によって何か作業ができるようになったりするものではありません。このような記憶をエピソード記憶と言いますが、ワーキングメモリーとは全く異なるはたらきをしていることが分かると思います。

ですから、ワーキングメモリーは、いわゆる記憶力と言われる知能とは異なるものであって、求められる場面も使われ方も、まるで違うものなのです。


ワーキングメモリーを評価する

このワーキングメモリーを知るには、一般的にはWISCという知能検査が用いられています。WISCは、子どもの不適応や発達の心配があった時に選択されることの多い検査です。

ですが、周りの人々が、WISCで知ることができるのは、あくまで特定場面におけるワーキングメモリーのはたらきについての年齢平均値との比較でしかありません。

周りの大人たちは、実施の日常生活での困難さとワーキングメモリーの力の関係を知る必要があります。そういう意味では、WISCの数値よりも、聞き直し分割行動の頻度が大きな参考になります。

慎重に進めていく必要のある作業を行う際に、「こうやれば良いんだったよね。」とか「さっきこうするように言ってたよね。間違いないよね。」というような聞き直しが、他の子と比べてとても多いと感じられる場合は、ワーキングメモリーの弱さによる困難さが生じている可能性があります。また、通常は一つの連続として行うべき作業を細切れに分割して進めていくことが多いお子さんも、ワーキングメモリーに課題がある可能性があります。


ワーキングメモリーに課題のあるお子さんは、他から気づかれにくい困難を思考プロセスにもっていると言えます。記憶力も理解力もあるため、作業遂行のために一時的に保持する記憶に課題があることに気づいてもらえにくいからです。

お子さんのワーキングメモリーに心配のある方は、ぜひカウンセリングの中でご相談ください。

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